奨学金を返せないのは甘えなのか?猶予制度や減額返還制度と債務整理について

奨学金を返せないのは甘えなのか?猶予制度や減額返還制度と債務整理について

奨学金の返済は簡単ではありません。在学中は「卒業後に就職をしてしっかり収入を得れば誰でも奨学金を返せるはず」と考えていたとしても、思っていた以上に生活費がかかったり、想定していたほどの収入を得られなかったりする結果、毎月数万円の奨学金の返済が難しくなるケースもあります。

また、場合によっては、奨学金の返済や生活費の工面が原因で、消費者金融などからの借り入れを頼ってしまうという人も少なくはないでしょう。

ただ、注意をしなければいけないのが、奨学金を返せないままだと借金を滞納するのと同じようなデメリットが発生するという点。延滞金や残債の一括請求・強制執行が実行されることになりますし、連帯保証人に迷惑がかかる可能性もあります。

奨学金を返せないのは甘えではありません。しかし、奨学金を借りた以上は、契約通りに返済をしなければいけないのも事実です。どうしても約束通りに奨学金を返せない場合には、独立法人日本学生支援機構が用意している返済猶予制度減額返還制度を積極的に活用したり、弁護士に債務整理を依頼したりするなどして、真正面から奨学金の返済問題に向き合う必要があるでしょう。

奨学金を返せなくなる主な理由

実は、多くの人が奨学金の返済で苦しんでいるという現状があります。実際、過去に奨学金を延滞したことがある人は、全体の約20%、5人に1人が奨学金を返せなくて困った経験があります

また、奨学金を利用している学生は2人に1人、平均すると約324万円の借り入れをしていると発表されています。月々の平均返済額は約16,880円、平均返済期間は約14.7年というように、卒業後の負担はかなり重いのが実情です(労働者福祉中央協議会HP)。

そこで、まずは、奨学金を返せない主な理由について、具体的に見ていきましょう。

  • ①正社員として就職できなかった
  • ②年収が低い
  • ③奨学金の延滞額が雪だるま式に増えてしまった

参照:「令和元年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」(独立行政法人 日本学生支援機構HP)
参照:「奨学金の返還者に関する属性調査」(独立行政法人 日本学生支援機構HP)

①正社員として就職できなかった

奨学金の延滞者と無延滞者を比較したとき、「延滞者に占める正社員割合が低い=延滞者に占める非正規社員・無職などの割合が高い」という傾向がうかがえます。

現在奨学金を返済中の人のうち、延滞者・無延滞者ごとの職業分布は次の通りです。

職業 延滞者 無延滞者
正社員 40.7% 74.3%
非正社員 30.9% 13.9%
自営業 7.0% 2.5%
学生 0.2% 1.2%
専業主婦(主夫) 4.6% 3.7%
無職・失業中・休職中 14.6% 4.0%
その他 2.0% 0.3%

延滞者に占める非正規雇用者・無職の割合は、無延滞者に占める割合の2倍以上です。つまり、奨学金を返せない理由は、「正社員として安定した給与を得ていないこと」が原因のひとつだと考えられます。

もちろん、正社員だからかならず奨学金を返済できるというわけでもありません。延滞者に占める正社員の割合が40%を超えることに注目すると、正社員の収入不足・慢性的な不況による収入低下なども見逃すべきではないでしょう。

ただ、正社員に比べると非正規雇用者は低収入になる傾向が強いのは事実です。就職活動に失敗・解雇・倒産などが原因で収入が減少した結果、奨学金を返せなくなると考えられます。

②年収が低い

奨学金の延滞者と無延滞者との間では、年収差が顕著です。

年収 延滞者 無延滞者
0円 12.2% 4.9%
100万円以下 16.0% 6.1%
100万円超~200万円以下 18.9% 9.0%
200万円超~300万円以下 22.6% 22.5%
300万円超~400万円以下 14.0% 21.2%
400万円超~500万円以下 7.2% 13.3%
500万円超~600万円以下 2.6% 8.9%
600万円超~ 2.6% 12.3%

ここから分かるように、延滞者は7割近くが年収300万円以下であるのに対して、無延滞者に占める年収300万円以下の割合は4割程度です。つまり、年収の低さが原因で奨学金を返せない人が多いという傾向がうかがえます。

原則として、奨学金は毎月数万円の返済額を月収から用意しなければいけないものです。ただ、生活費・家賃・子どもの教育費など、現実生活ではさまざまな支出を要します。したがって、低収入ほど奨学金を返せないのは当然のことだと考えられます。

③奨学金の延滞額が雪だるま式に増えてしまった

収入面の課題から奨学金を返済できなくなるケースは少なくはありませんが、実は、奨学金の延滞額が雪だるま式に増えてしまったことが原因で返済苦におちいるケースが多いことも見逃せないポイントです。

奨学金を返せない理由
1位 本人の低所得
2位 奨学金の延滞額の増加
3位 奨学金以外の返済負担

奨学金は、借金の返済と同じように、毎月約定返済日が到来するのが原則です。

つまり、あるタイミングで返済資金を用意できなければ、翌月には2ヶ月分(+延滞金)の支払い義務が発生することになります。

これでは、よほど家計収支バランスが抜本的に改善されない限り、いつまでも奨学金の延滞を解消することができないでしょう。

奨学金を返せないと6つのデメリットが生じる

ギャンブルなどが原因で借金を抱えたケースとは異なり、奨学金は学費や在学中の生活費などの必要な支出に充てるために利用するもの。「滞納したところで多少は融通をきかせてもらえるのではないか?」と考えてしまう人もいるでしょう。

しかし、奨学金を借り入れる際には金銭消費貸借契約を締結しているはずです。卒業後に返済がスタートしてから払えない事態が発生する場合には、契約に基づいて次の6つのデメリットが生じることになります。

  • ①督促がスタートする
  • ②延滞金が発生する
  • ③奨学金残債を一括請求される
  • ④信用情報にキズが付く
  • ⑤連帯保証人に迷惑がかかる
  • ⑥強制執行で財産・給与などが差し押さえられる

それでは、奨学金を返せないときに生じる6つのペナルティについて、それぞれ具体的に見ていきましょう。

①督促がスタートする

奨学金の返還金を返せない場合には、独立行政法人日本学生支援機構・架電業務委託を受けた事業者・債権回収会社から督促が行われます。

督促の方法は次の通りです。

  • 電話による督促(9時~21時)
  • 自宅・携帯電話番号が原則(連絡が取れない場合には職場などへの連絡あり)
  • 督促状などの文書送付
  • 自宅訪問

参照:「督促」(独立行政法人 日本学生支援機構HP)

基本的な取り立て方法は、奨学金を借り入れた本人の携帯電話への連絡・郵便物の送付という方法です。ただし、本人に連絡が取れない場合や何度督促状を送付しても返還金を滞納したままの場合には、例外的に職場連絡や自宅訪問などの方法が実施されます。

奨学金を滞納していることで職場や家族に迷惑をかけたくない場合には、かならず自分宛の連絡には対応するようにしましょう。

奨学金滞納で債権回収会社から連絡が来たら危険信号

奨学金を返せない期間が短い場合には日本学生支援機構から直接郵便物が届くのが原則です。

ただし、何ヶ月も返済金を延滞した状態がつづくと、債権回収会社が取り立てに着手することになります。

債権回収会社とは、債権の回収業を取り扱う専門機関です。日本学生支援機構が実施する取り立て業務に比べて厳しい頻度・文書が送付されてくること、また、強制執行などの法的措置が近い将来実行されるサインとなることから、滞納状況が深刻であることの指標となります。

奨学金滞納を担当する債権回収会社は次の通りです。これらの機関から郵便物が届いた場合には、すみやかに奨学金の滞納問題に向けて現実的な対処法に踏み出す必要があると考えられます。

債権回収会社からの郵便物が届いた場合、「身に覚えがないから捨てても問題なさそう」と判断してはいけません。なぜなら、残債の一括請求などの重要内容が記載されている可能性があるからです。

もっとも、その一方で、債権回収会社の名を騙った詐欺の可能性も否定できません。

したがって、債権回収会社からの通知が届いた場合には、記載されている電話番号や住所をネット等で検索したうえで、詐欺なら無視をする・奨学金の請求なら弁護士に滞納問題解消に向けた方法を相談することを強くおすすめします。

②延滞金が発生する

奨学金を返せないまま支払い期限が過ぎると、第一種奨学金(無利息)・第二種奨学金(利息付き)のいずれであったとしても延滞金が発生します。特に、無利息で借り入れている第一種奨学金についても返済が滞ると延滞金が課される点に注意が必要です。

延滞金とは、奨学金を滞納した場合に課される罰金のようなもの。借金滞納時に発生する遅延損害金と同じ位置付けです。【延滞している割賦金 × 延滞金年利率 ÷ 365日 × 延滞日数】に基づいて計算されます。

奨学金の延滞金の算定年利率は、第一種奨学金・第二種奨学金のいずれの場合も次の通りです。

  • 平成26年3月27日まで:年利率10%
  • 平成26年3月28日から令和2年3月27日まで:年利率5%
  • 令和2年3月28日以降:年利率3%

なお、第一種奨学金は平成17年3月以前に採用されたか否かによって、第二種奨学金は平成10年2月以前に貸与が終了しているか否かによって延滞金年利率が別途定められています。長期的に返済・滞納を繰り返している方は、「延滞金(独立行政法人 日本学生支援機構HP)」をご参照ください。

③奨学金残債を一括請求される

奨学金を返せない場合、一定の延滞期間が経過したタイミングで残債の一括返済を求められます。残債の一括請求をされるのは過去の支払い履歴次第です。たとえば、何度も長期延滞を繰り返していると短期間の滞納が生じただけで残債を一括請求される可能性がありますし、はじめて滞納した場合には半年~1年以上経ってからというケースもあります。

奨学金の借り入れ時に機関保証制度を利用している場合には代位弁済をした「公益財団法人 日本国際教育支援協会(JEES)」から、人的保証制度を利用した場合には独立行政法人日本学生支援機構(または債権回収会社)から内容証明郵便が送付されます。

もっとも、奨学金の残債が数百万円にも及ぶケースでは、月々の返済さえ難しい債務者が残債の一括請求に応じるのは不可能に近いはず。指定期日までに返済資金を用意できなければ強制執行が実行されるため、すみやかに返済状況改善に向けて動き出さなければいけません。

奨学金の未納者は借金を滞納した債務者と同じ課題を抱えていると考えられます。借金問題に強い弁護士・司法書士に相談をすれば、強制執行を回避するための債務整理手続きなどを提案してくれるので、すみやかにご相談ください。

④信用情報にキズが付く

奨学金を返せないまま延滞期間が約2ヶ月~3ヶ月に及ぶと、延滞者の信用情報にキズが付きます。いわゆる「ブラックリスト」に登録された状態のことです。

ブラックリスト情報などの個人の信用情報は、全国銀行個人信用情報センター(KSC)株式会社日本信用情報機構(JICC)株式会社シー・アイ・シー(CIC)という3つの信用情報機関によってデータ管理されています。そして、銀行・クレジットカード会社・貸金業者などと情報が共有されることになるので、奨学金の滞納情報がすべての金融機関に筒抜けの状態になるということです(参照:「個人信用情報機関への個人情報・個人信用情報の登録」独立行政法人 日本学生支援機構HP)。

したがって、信用情報にキズが付くと、滞納者の日常には次のようなデメリットが生じます。

  • 現在使用中のクレジットカードが強制解約される
  • クレジットカードの新規発行不可
  • 新規借り入れ・ローン契約不可
  • 賃貸物件の入居審査に通らない(信販系保証会社付きのものに限る)
  • 携帯電話・スマートフォン端末代金の分割払い不可(一括払いは可能)
  • 子どもの奨学金の連帯保証人になれない

奨学金を返済中の人の多くは、子育て中であったり、マイホームの購入を検討していたりなど、人生のいろいろなステップを歩んでいるでしょう。

しかし、奨学金を返せない状況がつづいてしまうと、子どもが奨学金を借り入れる場面・住宅ローンを組む場面など、さまざまなケースで弊害が生じます

もちろん、ご存じのように奨学金には機関保証制度が用意されていますし、住宅ローンを組む際にはパートナー名義で契約するなどの代替手段も用意されているので、デメリットを回避することは可能です。ただ、ブラックリスト情報が登録されていないケースと比べると、どうしても手間がかかったり一定の弊害が生じたりすることを押さえておきましょう。

ブラックリスト登録を避けるためには、早期に滞納分の奨学金を返済するしかありません。家計を節約する・自宅にある不用品を売却するなどの手段を実施して、すみやかに延滞状態を解消してください。

⑤連帯保証人に迷惑がかかる

奨学金の借り入れ時に人的保証制度を利用している場合には、主債務者の滞納によって保証人・連帯保証人に迷惑がかかることになります。

奨学金を利用するためには、人的保証制度・機関保証制度のどちらかを利用しなければいけません。これは、主債務者が奨学金を返せなくなった際に、奨学金の返済を肩代わりする担保を提供する趣旨に基づくものです。

人的保証制度では、次の人を保証人・連帯保証人に立てなければいけないとされています。機関保証制度を利用していない場合には、かならず家族・親族などの近親者を巻き込んだ人的保証制度を活用しているはずです。

要件
連帯保証人 次の①~⑥の要件を充たす人が連帯保証人資格を有する。
①未成年奨学生の場合には、その親権者(親権者がいない場合は未成年後見人)
②成年奨学生の場合には、その父母。父母がいない場合は4親等以内の親族(兄弟姉妹・叔父・叔母など)
③未成年者及び学生ではないこと
④奨学生本人の配偶者・婚約者ではないこと
⑤債務整理中(破産等)ではないこと
⑥貸与終了時に奨学生が満45歳を超える場合には、その時点で60歳未満であること
保証人 次の①~⑦の要件を充たす人が保証人資格を有する。
①奨学生本人・連帯保証人と別生計であること
②奨学生本人の父母を除く、4親等以内の親族(兄弟姉妹・叔父・叔母等)であること
③返還誓約書の誓約日(奨学金申込日)時点で65歳であること
④未成年者及び学生ではないこと
⑤奨学生本人の配偶者・婚約者ではないこと
⑥債務整理中(破産等)ではないこと
⑦貸与終了時に奨学生が満45歳を超える場合には、その時点で60歳未満であること

まずは、奨学金借り入れ時の契約書・スカラネット・パーソナルをご確認ください。人的保証制度を利用している場合には、主債務者の滞納によって返還誓約書を提出してくれた連帯保証人・保証人が一括返済を求められる危険性が高まります。

奨学金の連帯保証人・保証人への請求の流れは次の流れを経るのが一般的です。

  • ①奨学生本人の滞納・奨学生本人への督促
  • ②連帯保証人に対する請求(滞納額or残債全額)
  • ③連帯保証人が返還に応じない場合に保証人に請求(残債の全額請求がほとんど)

参照:「2.人的保証制度-返還を延滞した場合-」(独立行政法人 日本学生支援機構HP)

このように、奨学生本人が奨学金を返せないと、連帯保証人・保証人が残債の一括返還義務を強いられることになります。

そして、連帯保証人・保証人が返還義務に応じることができない場合、連帯保証人・保証人の信用情報にキズが付くだけではなく、連帯保証人・保証人自身が強制執行を受けるリスクも生じます。

なお、主債務者にとって悩ましいのは、「主債務者自身だけの家計改善を目的とするなら債務整理が適切であるが、債務整理を利用することによって連帯保証人・保証人に迷惑がかかる可能性がある」という点。奨学金借り入れ時に世話になった親族に迷惑をかけたくないという人も少なくはないでしょう。

このように、人的保証制度を利用して奨学金を借り入れた場合には、返済状況改善のために保証債務関係にまで注意を払いながら生活再建手段を選択しなければいけません。したがって、かならず弁護士・司法書士などの専門家に相談をして、全員にとって適切な手段と考えられる生活再建方法を選択してください

⑥強制執行で財産・給与などが差し押さえられる

残債の一括請求後も奨学金を返せない状態がつづくと、最終的には強制執行が実行されて、財産・給与などが差し押さえられることになります。

強制執行とは、滞納者が自主的に借金等を返済しない場合に、裁判所の手続きによってモノ・給与を差し押さえる法的手続きのことです。借金ではなく奨学金を返せないケースでも、最終的には強制執行が実行されるという現実を避けられません。

強制執行の対象になるのは次のものです。日本学生支援機構側が差し押さえ対象を選択するため、延滞者側は「何が処分されるのか分からない」という状況に追い込まれます

差し押さえ対象 内容・注意点
給与 ・手取り44万円以下:手取り額の1/4が差し押さえ
・手取り44万円以上:33万円以上の分が全額差し押さえ
・会社が強制執行手続きに巻き込まれる
・解雇されることはないが社会的信用を失う
預貯金口座 ・口座が凍結するリスクがある
・公共料金などの支払い額が足りなくなる
債務者名義の財産 ・動産、不動産問わず対象になる
・一定の差し押さえ財産は手元に残せる(仕事・教育に必要なものなど)

なお、奨学金を返せない場合に実行される強制執行では、次の法的措置に必要な費用も延滞者側が負担しなければいけません。換価処分によって得られた金銭は、【督促費用→延滞金→利息→元金】の順に充当されるため、「奨学金借り入れ総額を完済した」と認めてもらうためには実際の融資額以上の支払いを要するという点に注意が必要です。

  • ①支払督促予告:滞納長期化が原因で実施される一括返還のタイミングで法的措置を予告。
  • ②支払督促申立:予告を受け取っても返還しない延滞者に対して「支払督促」という法的措置を実行。
  • ③仮執行宣言付支払督促申立:支払督促でも返還に応じない延滞者について強制執行準備に向けた手続きを開始。
  • ④強制執行:仮執行宣言付支払督促が申し立てられても返還しない延滞者に対して最終措置がとられる。

各法的措置において延滞者側に異議申し立てを述べる機会は保障されています。その一方で、裁判所からの通知さえも無視してしまうと、日本学生支援機構側の主張が全面的に認められる結果、強制執行を避けることができません。

奨学金の未納者は、「強制執行だけは回避しなければいけない」という目的を明確にする必要があります。異議申し立てのチャンスなどを利用して時間稼ぎをしつつ、自力で返済資金を用意できないのなら弁護士・司法書士に債務整理を依頼することを強くおすすめします。

参照:「人的保証」(独立行政法人 日本学生支援機構HP)

奨学金を返せないときの5つの対処法

奨学金を返せないときには、「最低でも強制執行は回避する」「少しでも延滞金などのペナルティを軽減する」という目的を達成するために、すみやかに現実的な対処法に着手する必要があります。

奨学金を返せない延滞者に与えられている選択肢は次の5つです。

  • ①返済期限猶予制度を活用する
  • ②減額返還制度で毎月の返済負担を軽減する
  • ③死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除制度を活用する
  • ④奨学金返済資金のために家計を安定させる
  • ⑤弁護士に債務整理を依頼して奨学金・借金の返済状況を改善する

なお、奨学金を返せない場合には、「現在滞納中の奨学金」「今後返済日が到来する奨学金」の両者への対処法を並行して考えなければいけません。①~⑤の方法は両立可能なものがあるので、日本学生支援機構の相談窓口・弁護士などの専門家に相談しましょう。

①返済期限猶予制度を活用する

返済困難な事情(災害・病気・怪我・失業などによる収入減)が生じた場合には、返還期限猶予制度によって一定期間返済期限を先延ばしにすることができます。

返還期限猶予制度では、奨学金の返済期間を最大10年延長可能です。猶予期間中は利息が増えることはないので、奨学生側が負担する返還総額は一切変わりません。

ただし、返還期限猶予制度を利用するためには、「給与所得者なら年収300万円以下(世帯形態によって控除要件等が詳細に設定されています)」「1年ごとに申請を要する」「マイナンバー関係書類等の提出」「原則として延滞発生前の申請を要する」などの一定の要件が課されています。詳しくは、「返還期限猶予制度の申請手続き」をご参照のうえ、事務局までお問い合わせください。

なお、既に奨学金を延滞中のケースでも、病気・生活保護受給中など経済的に困窮状態にあると認定される場合には、今後の返済分についての猶予制度申請と合わせて延滞分についても返還を猶予してもらえる可能性があります。もちろん、この期間は延滞金も発生しませんし、延滞分についても猶予期間明けに分割払いを選択できる余地も残されています。

消費者金融などからの借り入れとは異なり、比較的経済的困窮者に配慮した運用が期待できるので、かならず奨学金窓口までお問い合わせください。

②減額返還制度で毎月の返済負担を軽減する

奨学金の減額返還制度とは、毎月の割賦金を1/2もしくは1/3に減額できる制度のこと。対象期間は最長15年間(180ヶ月)です(1年ごとに申請しなければいけません)。ただし、利息や返還総額自体が減額されるわけではなく、減額期間が終了した後は、減額返還適用機関に応じて返還期間が延長される点に注意が必要です。

つまり、「一切の支払いが難しい」という人には返済期限猶予制度が、「少しだけなら返済できる」という人には減額返還制度が適していると考えられます。

なお、減額返還制度を利用するためにも収入要件や手続き方法が詳細に定められています。かならず延滞前に担当部局までお問い合わせください。

③死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除制度を活用する

死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除制度についても押さえておきましょう。

一定の労働能力の喪失・制限事由が発生したケースでは、障害の程度や就労状況などを総合的に勘案した結果、個別具体的に調査が実施されて、免除の可否が決定されます(免除許可が出ない場合でも一般猶予制度を利用できる可能性があります)。願出に必要な診断書等については、日本学生支援機構まで直接お問い合わせください。

④奨学金返済資金のために家計を安定させる

今までは奨学金を返せない状況にあったとしても、いくつかの工夫を凝らせば自分で返還資金を用意できるケースもあるはずです。

たとえば、ギャンブルなどにお金を使う癖がある場合には、奨学金を返せないのは甘えだと言われても仕方がないでしょう。次の方法を実践して、毎月の収入からしっかりと奨学金を返せるように努力を重ねてください

  • 家計収支をチェックして節約項目を見つける(携帯プランの変更・生命保険の解約など)
  • ギャンブルや浪費癖など、お金のかかる趣味をやめる
  • 副業や資格手当制度を活用して収入アップを目指す
  • 自宅にあるブランド品・不用品などを売却して当面の返済資金を工面する
  • クレジットカードの利用頻度を減らしてお金の管理に敏感な姿勢を作る

また、消費者金融などからの借り入れを返済する場面と同じように、奨学金についても「繰上返還」方式での返還が可能です。たとえば、ボーナス月などのまとまった収入が入ったタイミングや家計収支が安定して奨学金返還に充てる余裕が生まれたときに繰上返還すれば、利息の発生を軽減して返還総額の減額を期待できるでしょう(第二種奨学金の場合)。

繰上返還を行う際には、スカラネット。パーソナルからの申し込み・申し込み書の郵送手続きなどが必要になるので、「繰上返還申込み(独立行政法人 日本学生支援機構HP)」をご参照ください。

奨学金返還のために消費者金融などに手を出してはいけない

奨学金の自力完済を目指す場合でも、収入減少などの事情がいつ発生するか分かりません。また、冠婚葬祭や子どもの進学などのタイミングで一時的に家計がひっ迫するおそれもあるでしょう。

このような場合でも、自力で完済を目指すと決めた以上は、消費者金融などの融資を頼るのは厳禁です。特に、貸金業者のなかには、「期間限定無利息サービス」などの手を出しやすい商品を提供している場合も少なくありませんが、このような誘惑にも負けてはいけません。

なぜなら、消費者金融などからの借り入れによって奨学金の返還資金を調達できたとしても、債務者が負担する借金総額は一切減っていないからです。むしろ、貸金業者との取引が開始することによって返済先が増えて家計管理が複雑になりますし、また、奨学金よりもはるかに厳しい利息条件を強いられるだけなので、借り手側にはデメリットしかないのが実情です。

奨学金の返還中に家計が苦しくなったときには、減額返還制度・返済期限猶予制度が用意されています。かならず延滞前に制度の利用について窓口までご相談ください。

また、仮に奨学金の返済日にお金を用意できないとしても、担当部局に連絡をして延滞の旨を丁寧に詫びれば少しの期間であれば待ってくれる可能性もあります。消費者金融に手を出すのではなく、現実的な交渉によって自力返還を目指しましょう。

奨学金の返還どころか生活費の工面さえ難しいなら公的支援制度を活用しよう

一括返還を実施しない限り、奨学金の返還はある程度長期間に及ぶはずです。いつ、怪我・病気・解雇などによって収入事情が大幅に悪化するかは誰にも分かりません。

奨学金を自力で返還している途中でこのような事情が生じ、それによって奨学金の返還だけではなく、生活費などにも支障が出るような状況に追い込まれたときには、次のような公的支援制度の利用をご検討ください。奨学金の減額返還制度・返済期限猶予制度の申し込み審査にも通りやすくなるでしょう。

  • 生活保護制度:最低限の生活を確保するために各種扶助が支給される。
  • 緊急小口資金:生活福祉資金の特例貸付として、20万円までを無利息・無担保で借りられる。新型コロナウイルス感染症による不況によって支給環境が整備されている。
  • 母子父子寡婦福祉資金貸付金制度:ひとり親世帯対象の融資制度。事業資金・修学資金など多様な内容が設定。
  • 求職者支援制度:就労訓練を受けながら月10万円の給付金を受けられる。転職活動と生活維持両立に役立つ。

家計ひっ迫に対しては行政側が数々の助成・融資制度を用意しています。まずは、自治体の相談窓口などにご相談ください。

なお、これらの公的支援制度による融資で奨学金の返済に充てることは原則として禁止されている点にご注意ください。奨学金の返還については、減額返還制度・返済期限猶予制度等の利用を奨学金相談窓口まで問い合わせましょう。

⑤弁護士に債務整理を依頼して奨学金・借金の返済状況を改善する

奨学金を自力で返還するのは難しいという場合には、債務整理をご検討ください。

債務整理とは、借金・奨学金などを合法的に減額できる国が認めた救済制度のこと。奨学金だけではなく消費者金融などの借金問題も同時に解決できるため、「月々の支払いに疲れた」「毎月の返済負担が重くて未来が見えない」という債務者におすすめの方法です。

そして、奨学金の返還などについて債務整理を利用する場合には、弁護士・司法書士といった法律の専門家に相談することを強くおすすめします。なぜなら、債務整理を専門家に依頼することによって、次の4つのメリットが得られるからです。

  • 弁護士は債務者の状況に適した債務整理手続きを提案してくれる
  • 専門家への依頼によって債権者・日本学生支援機構からの督促が停止する
  • 弁護士に債務整理を依頼すれば強制執行を回避できる
  • 借金問題や奨学金の返還については無料で相談できる

それでは、弁護士・司法書士に債務整理を依頼するメリットついて、それぞれ具体的に見ていきましょう。

弁護士は債務者の状況に適した債務整理手続きを提案してくれる

債務整理には、自己破産・任意整理・個人再生の3種類の手続きが用意されているため、債務整理によって返済状況の改善を狙う債務者側で手続きを選択する必要があります。

もっとも、各債務整理手続きにはメリット・デメリットがありますし、奨学金返還のように連帯保証人関係などの複雑な法律判断が絡む問題については素人が迂闊に手続きを選択すると想定外のトラブルに発展しかねません

債務整理の実績が豊富な弁護士・司法書士に相談すれば、債務者の希望・家計状況・連帯保証人への影響などを総合的に考慮してもらったうえで、自分に適した債務整理手続きが見つかるでしょう。

各債務整理手続きの特徴は次の通りです。専門家に相談する際の目安として参考にしてください。

債務整理 メリット・デメリット
自己破産 ・借金や奨学金の返済義務を帳消しにできる
・無職、低収入、非正規雇用でも利用できる
・財産処分などのデメリットが大きい
・税金や国民年金保険料などの滞納分は免除されない
任意整理 ・将来利息の支払いを免除できる
・裁判所を利用せずに債権者との交渉だけで手続きを進められる
・元本のみの3年~5年の完済計画を作り直せる
・整理対象を自由に選べるので連帯保証人への迷惑を回避できる
個人再生 ・借金元本を最大1/10まで減額できる
・住宅ローン特則を利用すればマイホームの担保権実行を回避できる
・裁判所の手続きが複雑なので素人だけでは手続きを進めにくい
自己破産・個人再生を利用すると連帯保証人・保証人に迷惑がかかる

奨学金を借りる際に人的保証制度を利用した人は、債務整理を利用するときに注意が必要です。

なぜなら、自己破産・個人再生ではすべての借金等が整理対象になるために、連帯保証人・保証人が主債務者に代わって日本学生支援機構から一括請求を受けることになるからです。

そもそも、人的保証制度とは「主債務者が借り入れた奨学金を返済しない場合」に備えて連帯保証人・保証人を設定するもの。主債務者が長期延滞した場合がここに含まれるのは当然のこととして、債務整理を利用した場合もこれに該当する点に注意が必要です。

つまり、主債務者が自己破産・個人再生を利用した場合には、主債務者自身は返済義務を免れられるとしても、連帯保証人・保証人になってくれた両親・親族が高額の返済負担を強いられることになります。そして、彼らが返還に応じることができない場合には、ブラックリストへの登録・強制執行のリスクに晒されることを意味します。

  • 自己破産:連帯保証人が残債全額の返済義務を負担する
  • 個人再生:(原則として)減額分について連帯保証人が返済義務を負担する

したがって、どうしても自己破産・個人再生によって生活再建を目指したいと希望する債務者は、かならず事前に連帯保証人・保証人と相談することをおすすめします。場合によっては、連帯保証人・保証人も同時に債務整理を利用する必要があるので、かならず弁護士・司法書士に適切な判断を仰ぎましょう。

なお、奨学金借り入れ時に機関保証制度を利用した場合には連帯保証人への影響を考える必要はありません。ご自身の家計収支状況などを客観的に分析したうえで、適切な債務整理手続きをご選択ください。

任意整理なら連帯保証人・保証人への迷惑を避けられる

「奨学金借り入れ時に連帯保証人・保証人になってくれた両親・親族に迷惑をかけたくない」という債務者には任意整理がおすすめです。

なぜなら、任意整理だけは整理対象の借金を自分自身で選択できるからです。

たとえば、奨学金以外に消費者金融などからの借り入れがある場合には、消費者金融からの借金についてのみ任意整理を実施して、奨学金返還については対象外にすることが可能です。これによって奨学金の連帯保証人が一括請求されるリスクは回避できますし、消費者金融などへの返済状況が改善すれば収入の範囲内から奨学金の返還もしやすくなるでしょう。

なお、奨学金以外に借金などを抱えていないケースでは任意整理の実益は乏しいという点に注意しなければいけません。なぜなら、任意整理は「将来利息のカット」を目的とした債務整理手続きなので、(無利息の)第一種奨学金について任意整理を利用するメリットは皆無ですし、(利息付とはいえ低金利条件の)第二種奨学金についても利息のカットだけを求めることに魅力は見出しにくいと考えられるからです。

このように、どの債務整理手続きが適切な手法であるかは、個々の債務者の実情に応じたケースバイケースの判断が不可欠です。かならず専門家に相談をして、実効性の高い生活再建手法を選択してもらいましょう。

専門家への依頼によって債権者・日本学生支援機構からの督促が停止する

弁護士・司法書士に債務整理を依頼すれば、消費者金融・日本学生支援機構・債権回収会社からの取り立てが停止します。

なぜなら、専門家が債権者等に郵送する「受任通知(介入通知・債務整理開始通知)」にはすべての取り立て行為を禁止する効力があるからです。

たとえば、「奨学金を返せないのは甘えではないか?」と不安に苛まれているなかで厳しい取り立てを受けるのはストレスでしょう。また、督促の電話に応じるのが怖くて無視をつづけると職場や自宅に借金取り立ての電話がかかってくる可能性もあるため、会社の人や家族に借金問題を知られるリスクも発生します。

弁護士・司法書士に依頼をすれば、依頼から2~3日以内に取り立てが完全に停止します。取り立てのプレッシャーからの解放によって、落ち着いた平穏な環境で生活の立て直しの準備に集中できるでしょう。

弁護士に債務整理を依頼すれば強制執行を回避できる

奨学金や消費者金融などへの返済が長期間滞った場合には強制執行が目前に迫った危険な状態に追い込まれかねませんが、債務整理を利用すれば強制執行を回避できるというメリットが得られます。

ただし、自己破産・個人再生には強制執行を停止させる法的な効力が存在しますが、任意整理には強制執行をストップする効果がありません。つまり、任意整理で生活再建を目指す場合には、別途債権者と交渉をして「強制執行に踏み出さないこと」を和解条項に盛り込む必要があるということです。

債務者の判断だけでは、強制執行へのケアまで含めて債務整理手続きを進めるのは簡単ではないはず。長期延滞が原因で裁判所から通知が届いているなどの強制執行目前の状況に置かれた債務者は、できるだけ早いタイミングで弁護士・司法書士までご相談ください。

借金問題や奨学金の返還については無料で相談できる

消費者金融への返済・奨学金の返還で苦労をしているという債務者のなかには、「専門家に相談したいが費用が工面できない」という不安を抱えている人も少なくはないでしょう。

ただ、借金問題に力を入れている専門家は、経済的に困窮している債務者でも専門家の力を借りることができるように、次のようなサポート体制を整えていることが多いです。

  • 相談料無料
  • 弁護士費用の分割払い
  • 法テラスの費用立て替え制度との提携

つまり、今すぐにお金を用意できないとしても、専門家への相談の糸口は誰でも掴めるということです。各種返済状況を改善できれば借金苦から解放された状態で人生を再スタートできるので、すみやかに専門家にアドバイスを求めましょう。

まとめ

奨学金を返せないのは甘えではありません。特に、昨今の厳しい景気動向においては、収入減少などの理由によって奨学金の返還が難しくなるのも当然でしょう。

ただ、奨学金を返せないからといって何の対処法も実践しなければ、延滞金の負担・ブラックリストへの登録・強制執行などのペナルティが発生するだけです。

したがって、まずは日本学生支援機構が用意している返還期限猶予制度・減額返還制度の利用をご検討ください。少なくとも一定期間については返還状況を改善することができるでしょう。その一方で、どうしてもこれ以上は奨学金の返還を継続するのが難しい場合・消費者金融などからの借り入れも重なって家計が火の車だという場合などには、債務整理がおすすめの生活再建方法です。

奨学金の返還などの特殊な事情が介在しているため、適切な手続きを選択する際には専門家のカウンセリングが不可欠です。費用面の不安を抱える必要はないので、できるだけ早いタイミングでご相談ください。

よくある質問

Q. 奨学金は、一般的な借金と何が違いますか?
A.

奨学金は、基本的に一般的な借金と同じです。大きく異なる所は、連帯保証人を必ず付けなければならないという所です。奨学金での連帯保証人は、ほぼ両親がなります。つまり、奨学金が返せないと親に請求がいくことになります。

Q. 奨学金の返済がきついので、自己破産したいです。できますか?
A.

自己破産できます。ただし、自己破産しても請求が親(連帯保証人)に行くだけです。本人が自己破産しても債権者は痛くも痒くもないのです。そもそも親が奨学金の返済をしてくれるのなら、わざわざ自己破産する必要がありません。自己破産せず、親に泣きついた方がいいでしょう。

Q. 奨学金の返済ができません。弁護士に相談したら、どうにかなりますか?
A.

一般の借金と異なり奨学金は弁護士に相談してもあまり意味がありません。なぜなら本人が債務整理などをしても、親に借金の請求が行くだけだからです。奨学金に関しては、日本学生支援機構に連絡して、返済期限猶予制度などを利用することが最も有効な手段となります。