奨学金を一括請求された!強制執行を回避する方法や連帯保証人への影響を解説

奨学金を一括請求された!強制執行を回避する方法や連帯保証人への影響を解説

奨学金の延滞期間が長期に及ぶと、滞納中の割賦金だけではなく、奨学金全額を一括請求されます。

奨学金の一括請求を無視するのは危険です。なぜなら、近い将来かならず強制執行が実行されて財産などが差し押さえられるだけではなく、連帯保証人が一括請求されるなどのかたちで家族・親族に迷惑がかかる可能性が高いからです。

したがって、奨学金を一括請求されたときには、すみやかに解決法に向けて動き出すのがポイント。たとえば、債務整理を利用すれば、奨学金の一括請求を分割払いに切り替えることができる・奨学金の返還義務を帳消しにできるなど方法で家計状況の改善を目指すことができます。

ただし、奨学金の返還問題を解決するにあたっては、奨学金以外の借金問題の扱いや連帯保証人への影響なども総合的に考慮して解決策を検討しなければいけません。債務者個人だけの判断では有効な手段を見つけにくいので、かならず弁護士・司法書士という法律の専門家にご相談ください。

奨学金の一括請求を無視するデメリットは3つ

奨学金の一括請求を受けた債務者は、すでに数ヶ月以上奨学金の割賦金を延滞しているケースがほとんどです。なかには、日本学生支援機構からの督促を一切無視してしまっているという人も少なくないでしょう。

しかし、奨学金の一括請求を受けるという段階に至ると、今までと同じように督促を無視するのは厳禁です。なぜなら、奨学金の一括請求を無視することによって次の3つのデメリットが生じるからです。

  • ①厳しい取り立てが繰り返される
  • ②連帯保証人が一括請求される
  • ③強制執行が実行される

それでは、奨学金の一括請求を無視した場合のデメリットについて、それぞれ具体的に見ていきましょう。

参照:「延滞した場合」(独立行政法人 日本学生支援機構HP)

①厳しい取り立てが繰り返される

奨学金を一括請求されるほど深刻な延滞者に対しては厳しい取り立てが繰り返されることになります。

特に注意が必要なのが、日本学生支援機構が委託した債権回収会社が取り立てに踏み出したケースアルファ債権回収株式会社三菱HCキャピタル債権回収株式会社エム・ユー・フロンティア債権回収株式会社などの債権回収会社は滞納金の取り立てを専門に取り扱う業者なので、従来の取り立てよりも厳しい方法で督促を行う可能性が高いです。

具体的には、次のような取り立て方法が実施されます。

  • 法的措置を予告する厳しい文言の督促状・催告書の送付
  • 携帯電話への着信の頻度が高くなる
  • 自宅の固定電話・職場に問い合わせが行われる可能性がある
  • 自宅や職場に直接訪問される

参照:「督促」(独立行政法人 日本学生支援機構HP)

なお、奨学金借り入れ時に機関保証制度を利用している場合には、延滞期間が3ヶ月以上になった段階で公益財産法人 日本国際教育支援協会(JEES) 機関保証センターが代位弁済を実行します。これによって、奨学金返還請求権が日本学生支援機構から日本国際教育支援協会に移転するため、これ以降は日本国際教育支援協会が債権者として取り立て業務を実施することになります。

「身に覚えがない請求先から督促状が届いた」と不審に思って破棄するのではなく、文面を確かめたうえで誠実に今後の返済方法などについて検討を始めましょう。

②連帯保証人が一括請求される

奨学金借り入れ時に人的保証制度を利用している場合には、連帯保証人・保証人が一括請求されるというデメリットについても押さえておかなければいけません(機関保証制度を利用した場合には連帯保証人への影響を考慮する必要はありません)。

具体的には、奨学生本人が度重なる督促にも自主的に応じない場合には「連帯保証人」が、奨学生本人・連帯保証人の両者が返還に応じない場合には「保証人」が一括請求されるという流れです。

特に、連帯保証人は主債務者と同一内容の返還義務を負担する法的地位にあるもの。日本学生支援機構側から一括返済を求められた場合には、原則として、いかなる事情があったとしても、連帯保証人は一括請求を拒絶することはできません(たとえば、「先に主債務者に請求して欲しい」「主債務者に強制執行してから残債を払う」などの抗弁も認められません)。

連帯保証人・保証人が返還に応じることができなければ、連帯保証人・保証人の信用情報にキズが付き、連帯保証人等の財産などが強制執行されるリスクも生じます。連帯保証人に名を連ねてくれた家族・親族に迷惑をかけたくない場合には、任意整理や返還期限猶予制度などを効果的に組み合わせる必要があるため、すみやかに弁護士・司法書士までご相談ください。

参照:「第一種奨学金の人的保証制度」(独立行政法人 日本学生支援機構HP)

③強制執行が実行される

奨学金の一括請求を無視しつづけると、最終的には強制執行が実行されて延滞者の財産・給与などが差し押さえられることになります。機関保証制度を利用した場合には強制執行を避けられませんし、人的保証制度を利用した場合でも連帯保証人等への請求の前に延滞者本人に対する強制執行が実行される可能性を否定できません。

強制執行が実行されると、次のモノが処分対象になります。極端なケースを想定すると、奨学金残債全額を充当できるまで手あたり次第(差し押さえ禁止財産以外の)財産が処分されることもあり得るので、日常生活にかなりの支障が生じる危険性があります。

  • 給与:原則手取り額の1/4が対象。手取り44万円以上なら33万円以上の額面全額。
  • 預貯金口座:口座凍結のリスクあり。公共料金や家賃などの支払いに影響が出る。
  • 延滞者名義の財産:動産・不動産問わず対象に。手元に残せるのは生活等に必要な”差し押さえ禁止財産”のみ。

強制執行が実行されると、家族や職場に迷惑がかかります。社会的な信用を失うことになるでしょう。

残債を一括請求されてから強制執行が実行されるまでには、【支払督促予告通知書の送付 → 支払督促の申し立て → 仮執行宣言付支払督促の申し立て → 強制執行】という流れを経るのが一般的です。そして、各段階において滞納者には異義を申し立てる機会が保障されています

債権者・裁判所からの通知を無視するだけでは強制執行が実行されるだけ。しかし、債務者側が異議申し立てを実施し、債務整理などの適切な対処法を実践すれば、強制執行を回避・返還状況の改善・連帯保証人への配慮などを実現することができます。

奨学金の残債を一括請求された今、強制執行までは時間がありません。すみやかに弁護士・司法書士までご相談ください。

奨学金一括請求による強制執行を回避するための対処法4つ

奨学金を一括請求された場合は、強制執行が目前に迫った危機的な状況です。

したがって、強制執行を回避するために、現実的な対処法に踏み出す必要があると考えられます。

奨学金を一括請求された場合の対処法は次の4つです。

  • ①自力で返済資金を用意して一括返済する
  • ②返還期限猶予制度を利用する
  • ③弁護士・司法書士に債務整理を依頼する
  • ④消滅時効を援用する

それでは、奨学金を一括請求された債務者に与えられた4つの対処法について、それぞれ具体的に見ていきましょう。

①自力で返済資金を用意して一括返済する

奨学金の一括請求を旨とする内容証明郵便に記載された返済期日までにお金を用意する目途が立つ場合には、自力返還によって奨学金の一括請求に対応することができます。

たとえば、次の方法を実践して残債の一括返済用の資金を工面しましょう。

  • 自宅にあるブランド品・高価ゲーム機器などを売却する
  • 家族・親族に相談をして返済資金の支援を受ける

特に、家族や親族に返済資金の支援を受けるのは効果的な方法です。

たとえば、奨学金の借り入れ時に父母が連帯保証人になっている場合、主債務者が残債の一括請求に対応できなければ、連帯保証人が金銭負担を強いられる可能性が高いです。日本学生支援機構側から連帯保証人に一括請求をされるのを待っている間にも延滞金が加算されることになるため、「いずれ請求を受けることが確定しているのなら、比較的請求額を低額に抑えられる今の段階で連帯保証人側が支払っておいた方がメリットは大きい」と考えられます。

また、親族などからの融資によって奨学金の返済を立て替えることができれば、少なくとも「日本学生支援機構に強制執行を実行される」という最悪の事態は回避できます。もちろん、事後的に親族に立て替え分の返済を継続する必要はありますが、親族間の貸し借りということで利息条件・返済方法については融通をしてもらいやすいはずです。

奨学金の一括請求に対して自力返還できれば、その時点で奨学金の滞納問題は完全に解決できます。返還負担のない新たな生活をリスタートできるでしょう。

②返還期限猶予制度を利用する

日本学生支援機構では、返済が難しくなった債務者のために、返還期限猶予制度を用意しています。

返還期限猶予制度とは、返還困難な事情(災害・怪我・病気・失業・その他収入の減少)が生じた場合に、返還期限の猶予を申し出ることができるというもの。返還すべき元金額・利息の総額はそのままの状態で減ることはありませんが、支払い期限を最長10年間(120ヶ月)猶予してもらうことが可能です(猶予期間終了後に返還が再スタートする点にご注意ください。また、返済困難な事情次第では10年以上の猶予が認められるケースもあります)。

そして、返還期限猶予制度は原則として延滞前に申し出なければいけませんが、例外的に、現在奨学金の返還金を延滞中のケースでも返還期限猶予制度の適用が認められる可能性があります。具体的には、「生活保護受給中などのように、真に差し迫って奨学金の返還が困難」といえる場合です。

つまり、奨学金延滞中の債務者、また、延滞が原因で残債の一括請求をされた債務者でも、返還期限猶予制度の適用が認められれば、延滞金の加算もない状態で返済期限を最大10年伸ばしてもらえるということ。延滞者に対する返還期限猶予制度の適用可否については個別の事情が斟酌されるため、必要書類の提出と合わせて、奨学金相談窓口の担当者に丁寧に事情を説明しましょう。

なお、奨学金の延滞が原因で一括請求された場合には、減額返還制度によって分割払いに切り替えることはできない点にご注意ください。

③弁護士・司法書士に債務整理を依頼する

奨学金の一括請求に対して自力で返済資金を用意するのが難しい場合や、奨学金の一括返済義務以外にも消費者金融カードローンなどからの借り入れで返済に苦しんでいる場合には、弁護士・司法書士に債務整理を依頼するのが有効な選択肢です。

債務整理とは、借金・奨学金などの返済苦におちいった債務者に与えられた救済措置のこと。国が認めた借金減免制度なので、合法的に返済状況を改善することができます。

特に、奨学金を一括請求された債務者は、すでに延滞期間が長期に及んで深刻な家計状況にあるはずです。また、奨学金の一括請求の場合には、連帯保証人が金銭負担を強いられるリスクなど、債務整理を利用するにあたって考慮すべき特殊事象が少なくありません

したがって、債務整理という選択肢によって生活再建を目指す場合には、かならず弁護士・司法書士という法律の専門家に判断を仰ぐことをおすすめします。

それでは、奨学金の一括請求などの返済問題を抱えた債務者にとっての有効な選択肢である”債務整理”について、具体的な内容を見ていきましょう。

債務整理の3つの種類

債務整理には、任意整理・個人再生・自己破産の3つの手続きが用意されています。

具体的な内容は次の通りです。これから債務整理を利用する債務者側で手続きを選択しなければいけません。

  • 任意整理:第二種奨学金の利息をカット・一括請求を分割払いに変更できる
  • 個人再生:奨学金残債総額を減額・一括請求を分割払いに変更できる
  • 自己破産:奨学金の返還義務が免責される

奨学金の一括請求を受けた債務者が債務整理を利用する際には、第一種奨学金(無利子)・第二種奨学金(有利子)のどちらを返還中なのか、機関保証制度と人的担保制度のどちらを活用したのか、奨学金以外の借金問題を抱えているのかなど、色々な事情を総合的に考慮して手続きを選択しなければいけません。

ここからは、各債務整理手続きのメリット・デメリットなどに照らしながら、状況ごとに利用すべき手続き・避けるべき手続きを紹介するので、弁護士・司法書士に相談する際の材料としてお役立てください。

任意整理なら奨学金の利息をカットして一括請求を分割払いに変更できる

任意整理とは、裁判所を利用せずに、債権者・日本学生支援機構・債権回収会社と直接交渉する債務整理手続きのこと。多くの任意整理交渉において、「将来利息の支払いを免除したうえで、元本残債だけを3年~5年で分割払いする」という和解契約が締結されるのが一般的です。

任意整理のメリット・デメリットは次の通りです。

任意整理のメリット
  • 将来利息の支払い負担から解放される
  • 元本だけの返済計画に引き直せる
  • 3年~5年で完済を実現できる
  • 債務者自身が整理対象の借金を選べる(連帯保証人への迷惑を回避できる)
  • 任意整理のデメリット
  • 任意整理前よりも毎月の返済額が増えるリスクがある
  • 無利息、低利息商品については任意整理による減額効果は期待しにくい
  • ブラックリストに約5年間登録される
  • まず、任意整理の最大の特徴である「利息のカット」について考えてみましょう。たとえば、無利息の第一種奨学金を返還しているケースでは、最初から利息負担はゼロなので任意整理を利用するメリットはありません。また、有利子の第二種奨学金を返還しているケースでも、そもそも奨学金の利息条件は年利1%未満の超低利率です。つまり、「利息の負担が軽減されたから返済がしやすくなった」とは感じにくいというのが実情でしょう(参照:「第二種奨学金の貸与利率」(独立行政法人 日本学生支援機構HP))。

    これに対して、奨学金を一括請求された債務者が注目すべきポイントは「一括請求を分割払いに引き直せる」というメリットについて。長期延滞が原因で奨学金の残債を一括請求された後でも、(日本学生支援機構側が合意をしてくれるケースに限り)ふたたび分割払いに変更することが可能です。つまり、「一括請求には応じられないが、家計収支バランスを整えれば分割払いを継続できる」という人にはメリットが大きいと考えられます。

    ただし、奨学金について任意整理交渉を進めた場合に注意しなければいけないのが「返済期間・毎月の返還額」について。たとえば、奨学金残債200万円(毎月の返還額約12,000円・完済計画約14年)の人が任意整理で5年の完済計画を作り直した場合、返済期間の短縮化というメリットが得られる代わりに、毎月の返済額が約33,000円に増額されるというデメリットを受け入れなければいけません。

    任意整理交渉によって締結された和解契約通りに返済できない場合には、延滞期間が2ヶ月を経過した段階でふたたび残債の一括返済を求められ、粛々と強制執行が実行されるだけです。これでは、せっかく任意整理交渉で一括請求を分割払いに変更した意味がなくなってしまうでしょう。

    したがって、任意整理を利用して奨学金の一括請求を分割払いに切り替える場合には、「自力で完済できる返済スケジュールを作り直せるのか」「和解契約通りに完済できるだけの資力があるのか」を見極めるのがポイントとなります。かならず任意整理交渉に慣れた弁護士・司法書士にご相談ください。

    個人再生なら奨学金総額を減額して一括請求を分割払いに変更できる

    個人再生とは、裁判所を利用して、借金・奨学金の元本自体を減額したうえで3年の分割払い計画を作り直す債務整理手続きのこと。原則として利息の免除しか認めてもらえない任意整理とは異なり、元本自体の減額にまで踏み込めるので、大きな減額効果を期待できます。

    個人再生のメリット・デメリットは次の通りです。

    個人再生のメリット
  • 借金総額次第で最大1/10まで元本を減額できる
  • 減額後の元本は3年完済の返済計画
  • 返済中の住宅ローンに配慮した特則を利用できる
  • 個人再生のデメリット
  • サラリーマンなどの安定した給与所得者の必要あり
  • 裁判所の手続きが複雑で時間がかかる
  • 借金総額100万円以下は減額効果を期待できない
  • ブラックリストに約10年間登録される
  • 個人再生を利用する場合の大前提が、「減額後の残債を3年で滞納なく完済できるだけの資力がある」と裁判所に認めてもらうこと。つまり、無職・低収入・非正規雇用などの経済的な安定性が見受けられない債務者は、個人再生を申し立てても裁判所からの不認可決定が下される可能性が高いということです。実際、「奨学金を滞納している人の約半数が非正規雇用・無職・失業中」というデータが出されているため、奨学金の返還問題を個人再生で解決したいという方は、ご自身の職業・収入が個人再生に相応しいかを専門家に判断してもらいましょう(参照:「令和元年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」(独立行政法人 日本学生支援機構HP))。

    また、個人再生には「元本の減額後、3年の分割払いに変更可能」というメリットがありますが、次のように、元本の減額割合(最低弁済額)は債務者が抱えている借金総額によって異なる点にも注意が必要です(住宅ローンを除く)。

    • 借金総額100万円未満:減額なし
    • 借金総額100万円以上500万円以下:100万円まで減額
    • 借金総額500万円を超え1,500万円以下:総額の1/5まで減額
    • 借金総額1,500万円を超え3,000万円以下:300万円まで減額
    • 借金総額3,000万円を超え5,000万円以下:総額の1/10まで減額

    つまり、奨学金や消費者金融カードローンからの借り入れが総額100万円に満たない場合には、個人再生を利用しても借金残債自体の減額効果は得られないということ。わざわざ手続きに時間・労力を要する個人再生を利用しなくても、任意整理による直接交渉で同等の結果を得ることが可能です。なお、個人再生の減額割合を決定する際には、債務者自身が所有している高価財産額などが免除されるリスクがあるという点も押さえておきましょう。

    その一方で、個人再生を利用すれば奨学金の一括請求を分割払いに切り替えることが可能ですし、「奨学金残債・消費者金融カードローンなどの借り入れ総額を合算すると数百万円・数千万円にも及ぶ」という債務者にとっては、個人再生を利用するメリットは大きいと考えられます。

    したがって、個人再生を利用する際には、「自分の借金事情を踏まえるといくらまで減額が可能なのか」「個人再生で一括請求を分割払いに切り替えるメリットがあるのか」という視点をもつのが重要です。財産調査などの詳細な手続きが必要になるため、かならず弁護士・司法書士までご相談ください。

    自己破産なら奨学金返済義務の免責を狙える

    自己破産とは、裁判所を利用して、借金・奨学金などのすべての返済義務を免責してもらう債務整理手続きのこと。自己破産の免責許可決定が確定した段階で借金生活から抜け出すことができるので、個人再生・任意整理のように手続き終了後に返済生活がつづくことはありません

    ただし、「免責」という大きなメリットを手にするためには、相応のデメリットが発生する点に注意する必要があります。自己破産のメリット・デメリットは次の通りです。

    自己破産のメリット
  • 借金返済義務が帳消しになる(”非免責債権”以外)
  • 収入要件を問わず誰でも利用できる(無職、専業主婦でも可能)
  • 自己破産のデメリット
  • 債務者名義の財産が処分される(自宅などを含む)
  • 非免責債権(税金・養育費など)は免責の対象外
  • ギャンブルが原因の借金があると手続きの難易度が高くなる(=裁量免責)
  • 手続き中は職業制限を受ける仕事がある(警備員など)
  • 手続き中の移動制限や郵便物の管理制限など
  • ブラックリストに約10年間登録される
  • 奨学金の一括請求を受けた債務者が考えるべきことは、「”奨学金の返還義務の帳消し”というメリットと”自己破産のデメリット”を天秤にかけてどちらを選択するのか」という点です。

    たとえば、「購入したマイホームを手放すのは避けたい・引越しはできない」という事情を最優先に考えるのなら、奨学金の一括請求を自己破産で解決するのは不向きでしょう。ただし、このまま奨学金の一括請求を放置しつづけると強制執行で自宅が処分される可能性が高いので、強制執行前に個人再生・任意整理に踏み出さなければいけません。

    その一方で、「奨学金以外にも消費者金融カードローンなどから高額を借り入れている」「個人再生・任意整理を利用したところでこれ以上返済を継続するだけの余裕がない」「そもそも現在無職で所有財産が一切ない、自己破産をデメリットとは感じない」などのケースでは、自己破産によって免責を狙うのが最適な方法だと考えられます。個人再生・任意整理で得られる減額効果が債務者自身にとって抜本的な解決にならないのであれば、自己破産をきっかけに人生を再スタートするべきです。

    このように、自己破産には大きなデメリットが存在しますが、メリットとの優劣関係は各債務者に事情によって異なります。良い意味でも悪い意味でも今後の生活環境が大きく変化する可能性があるので、かならず弁護士・司法書士へ相談をして自己破産の適否を判断してもらいましょう

    債務整理を利用すれば強制執行を回避できる

    奨学金の残債を一括請求された債務者が最優先に考えなければいけないのが「強制執行を回避すること」です。

    そして、債務整理には、返済状況の改善だけではなく強制執行をストップする効果も期待できるため、差し迫ったペナルティを回避するための有効な手段と考えられます。

    ただし、自己破産・個人再生には強制執行を停止する法的効力がありますが、任意整理には強制執行を停止する効力はないという点に注意が必要です。つまり、奨学金の一括請求に対して任意整理交渉をもちかけたところ、交渉中に強制執行が実行されてしまうというリスクもあり得るということです。

    したがって、奨学金の一括請求について任意整理で対抗する場合には、手続き中から「強制執行は実行しないで欲しい」旨を債権者との交渉内容に盛り込む必要があります。

    一括請求段階ではブラックリストに登録済み!躊躇なく債務整理に切り替えよう

    各債務整理手続きのデメリットで紹介したように、どの手続きを選択したとしても、「約5年~10年間ブラックリストに登録される」というデメリットが発生します。

    実は、債務者のなかには、「信用情報にキズが付くのは嫌だから債務整理を利用したくない」と考える人が意外と多いもの。確かに、ブラックリストに登録されると、クレジットカードが使えなくなる・住宅ローンなどを組めなくなる・子どもの奨学金の連帯保証人になれないなどの弊害が発生するのは事実です。

    ただし、奨学金の一括請求を受けた債務者は、「ブラックリストに登録される」という債務整理のデメリットを重要視する必要はありません。なぜなら、奨学金の一括返済を求められた債務者はすでにブラックリストに登録された状態だからです。

    つまり、債務整理を利用する前に信用情報にキズが付いている以上、債務整理を利用したからといって現実的な弊害が増えることはないということ。むしろ、今の段階で債務整理に踏み出して奨学金の返還・借金の返済状況を抜本的に改善すれば、ブラックリストが解消されるタイミングを前倒しできるというメリットさえ生じます。

    したがって、奨学金を一括請求された債務者は、むしろ「債務整理を利用しやすい状況にある」とポジティブに捉えて生活再建の道を歩み出しましょう。

    注意!債務整理を利用すると連帯保証人に迷惑がかかる可能性が高い

    奨学金の一括請求に対して債務整理を利用する場合にかならず配慮しなければいけないのが「連帯保証人・保証人への迷惑」についてです。

    そもそも、貸与型奨学金を借り入れる際には、機関保証制度・人的保証制度のどちらかを選択しなければいけません。そして、人的保証制度を利用した場合には、主債務者が債務整理に踏み出すことによって、連帯保証人・保証人が主債務者の代わりに次の返済負担を強いられることになります(これに対して、機関保証制度を利用した場合には連帯保証人などへの迷惑は一切発生しません)。

    任意整理
    連帯保証人が奨学金残債を一括請求される
    個人再生
    連帯保証人が減額された金額分を一括請求される
    自己破産
    連帯保証人が奨学金残債を一括請求される

    ここから分かるように、人的保証制度を利用して父母・親族などが連帯保証人に付されている場合には、「奨学金の一括請求を債務整理の対象に含めた」時点で高額の金銭負担を強いられることになります。

    ただし、奨学金の一括請求を無視したままでは、やがて連帯保証人も一括返済を求められるリスクに晒されることには変わりありません。

    そこで、奨学金借り入れ時に人的保証制度を利用した場合には、次の2つの対処法が考えられます

    • 「奨学金以外」の借金について任意整理を利用し、奨学金の一括請求は自力返済or返還期限猶予制度を利用する。
    • 事前に連帯保証人・保証人と話し合いをして、一緒に債務整理を利用するor奨学金残債を立て替えてもらう。

    「奨学金以外」の借金について任意整理を利用すれば奨学金の返還問題も解決できる見込みがあるのなら、連帯保証人への迷惑は避けることができます。

    これに対して、奨学金以外には借金がない場合、これ以上は一切返済を継続できない場合などでは、連帯保証人になってくれた家族・親族に一定の影響が生じるのを避けられません。利害関係の調整や丁寧な話し合いが必要になるので、弁護士・司法書士に交渉を仕切ってもらった方がスムーズでしょう。

    ④消滅時効を援用する

    もし、奨学金の返還を滞納してから5年以上が経過しているなら、消滅時効を援用して返還義務を帳消しにできる可能性があります。

    消滅時効とは、一定期間の権利の不行使によって「権利・義務を最初からなかったもの」として扱う法制度のこと。近時の民法改正によって、奨学金の消滅時効は5年で完成するとされました((債権等の消滅時効)民法第166条)。

    もっとも、奨学金について消滅時効を援用して返還義務を逃れるのは不可能に近いです。なぜなら、消滅時効の完成を主張するためには、「時効期間中に消滅時効更新事由・消滅時効完成猶予事由が存在しないこと」という要件を充たさなければいけませんが、日本学生支援機構・債権回収会社は消滅時効が完成する前に法的措置に踏み出すなどして消滅時効の完成を妨げる措置をとってくるのが一般的だからです。

    日本学生支援機構・債権回収会社は、奨学生の返還状況をしっかりと把握しています。「うまくやれば逃げ切れるのではないか?」と期待しているうちに、延滞金が増えつづけ、一括請求を避けられない状況に追い込まれるだけです。

    したがって、奨学金の返還問題については、消滅時効という例外的なルールによる解決を期待するのではなく、債務整理や自力返還などの方法で真正面から向き合うのが一番の近道だと考えられます。

    まとめ

    奨学金を一括請求された場面では、強制執行が目前に迫っているということを理解したうえで適切な対処法に踏み出す必要があります。

    自力返還が可能なら返済資金を調達する、深刻な経済状況にあるなら返還期限猶予制度の活用可能性を探るなど、滞納者だけでも取り得る選択肢が用意されているので検討しましょう。

    その一方で、「どうしても一括返済できない」「もう一度分割払いに変更してもらえれば返済できる」「他にも借金を抱えているので返済継続が厳しい」という状況の場合には、債務整理で抜本的に家計状況の改善を目指すべきです。

    ただし、奨学金の返還を迫られた場面では、連帯保証人への影響なども総合的に考慮して手続きを選択する必要があるので、かならず借金問題・債務整理の経験豊富な弁護士・司法書士までご相談ください。

    よくある質問

    Q. 奨学金は他の借金に比べ、取り立てが緩い・甘いと聞きましたが本当ですか?
    A.

    確かに、昔の奨学金は回収が緩かった(甘かった)ようです。しかし、近年は取り立てが厳しくなっています。その理由は、奨学金の回収を専門業者に委託しているからです。専門の回収業者は奨学金であろうと一般の借金だろうと関係なく、回収・徴収しますのでご注意ください。

    Q. 奨学金を返済しないと、どうなりますか?
    A.

    奨学金を借りるときは、必ず連帯保証人をつけることを強要されます。奨学金における連帯保証人とは、ほぼ親(両親)などの親族です。借金の原則として、債務者(本人)が返済できない時は連帯保証人に債務(借金)がいきます。つまり、奨学金が返せない時は連帯保証人である親(両親)に請求が行くことになるのです。

    Q. 奨学金と一般的な借金に、違いはありますか?
    A.

    基本的に奨学金と一般的な借金に違いはありませんが、一つだけ異なる点があります。それは、返還期限猶予制度がある点です。奨学金を貸し出している日本学生支援機構ならではの制度です。返還期限猶予制度とは、支払い期限を最長で10年猶予してもらえる制度です。返済が厳しい時は、このような制度を上手く使って乗り切りましょう。