給料の差し押さえは無視できない!会社への影響や強制執行を回避する方法を解説

給料の差し押さえは無視できない!会社への影響や強制執行を回避する方法を解説

借金の延滞期間が長期化すると、債務者の給料が差し押さえられる可能性が出てきます。裁判所からの事前通知によって給料差し押さえが実行されることを把握できるので、通知を無視せずに強制執行回避に向けて行動に移すべきです。

給料に対する差押予告通知書を無視して強制執行が実行されると、毎月給与手取り額の1/4が天引きされる会社や家族に借金のことがバレる生活費が用意できず更に困窮するなどのデメリットが生じかねません。

したがって、給料差し押さえが迫っている場合・すでに強制執行手続きがスタートしている場合には、「借金残債全額を自力完済する」「自力完済が難しいなら債務整理を利用する」の選択肢を検討するべきでしょう。これによって、給料の差し押さえを回避・停止することができます。

弁護士・司法書士に相談をすれば、給料の差し押さえを回避しつつ、生活再建に役立つ債務整理手続きを提案してくれます。強制執行まで時間がないので、すみやかに相談しましょう。

もくじ

給料の差し押さえは無視できない3つの理由

まず、債務者が押さえるべきポイントは、「給料の差し押さえは無視できない」という点です。

確かに、これまでの長期延滞期間中は、債権者からの電話連絡・郵便物などを無視してもただ取り立てが繰り返されるだけで、目に見えるペナルティは課されていませんでした。

しかし、差し押さえ手続きは裁判所が認めた合法的な債権回収プロセスです。そのため、次の3つの理由から、給料の差し押さえを無視することには意味がないと考えられます。

  • ①給料差し押さえを会社は拒否できない(確実に行われる)から
  • ②職場は突き止められるから
  • ③退職・転職する方法は無効だから

それでは、給料の差し押さえを無視してはいけない3つの理由について、それぞれ具体的に見ていきましょう。

①給料差し押さえを会社は拒否できない(確実に行われる)から

給料の差し押さえ手続き(債権執行手続き)は会社を巻き込んだ流れで行われます。

そして、手続きに巻き込まれた会社には拒否権がないため、確実に給与の差し押さえは実行されます。

  • ①裁判所に対して債権者が給与債権の差し押さえを申し立てる
  • ②裁判官が「債権差押命令」を発令
  • ③裁判所が会社・債務者・債権者に「給与債権差押命令正本」を発送
  • ④債務者が「給与債権差押命令正本」を受け取ってから4週間経過後、債権者が会社に直接取り立てを実施

参照:「債権執行手続について」(裁判所HP)

会社は、裁判所の命令にしたがって、請求目録満額に達するか債権者が強制執行を取り下げるまで毎月債権者にお金を振り込みつづけることになります。

たとえば、債務者が「お金はすでに完済したから給与を満額支払って欲しい」と会社に申し出たとしても、虚偽の可能性が否定できないため「供託」をするだけ。少なくとも、強制執行手続き進行中に債務者が勝手に会社から満額を受け取るのは不可能でしょう。

したがって、給与差し押さえを無視することに意味はありません。裁判所・債権者・会社との間で手続きが進められるため、かならず差し押さえ回避・停止に向けて現実的な対処法に踏み出す必要があります。

②職場は突き止められるから

債務者のなかには、「債権者に勤務先が知られていないから給料が差し押さえられることはない」と考えている人もいるでしょう。

ただ、消費者金融カードローンから借り入れをする際には勤務先情報を提供しているはず。契約書に記載したことを忘れているだけで、基本的には債権者に筒抜けの状態です。

そして、注意を要するのが、仮に転職などによって職場が変わったとしても、給料の差し押さえの根拠となる請求権が「養育費・婚姻費用等の民事上の請求権」「生命・身体の損害を原因とする損害賠償請求権」の場合には、債権者側が債務者の勤務先を調査することが可能です。

具体的には、令和2年4月1日に施行された改正民事執行法において、財産開示手続き・情報取得手続きを利用すれば、市区町村・日本年金機構・共済組合に給与債権の情報を求めることができるとされました(民事執行法第206条)。

これによって、債務者の氏名・住所・勤務地などの詳細な情報が手に入るので、給料債権を差し押さえることは可能となります。

③退職・転職する方法は無効だから

改正民事執行法における給与債権の情報取得手続きが一定範囲の債権に限られることを踏まえると、消費者金融カードローンなどからの借り入れについては転職・退職などの方法によって逃げ切れそうにも思えます。

しかし、たとえば給与の差し押さえ中に退職をしたとしても退職金に対して強制執行が実行されるだけですし、退職を偽装して再雇用されたようなケースでは従来の債務名義が有効と扱われて給与への差し押さえが継続する可能性もあります(最判昭和55年1月18日)。

また、借金滞納が原因による給与差し押さえを回避するためだけに従来の職場から転職したとしても給与は下がることが多いでしょうし、もし債権者側の調査によって転職先がバレるとふたたび強制執行が実行されるだけです。

つまり、退職・転職によって給与差し押さえを回避する方法は現実的ではありませんし、債務者側に生じるデメリットが大きすぎるということを意味します。借金問題は真正面から向き合うのが解決への一番の近道なので、「逃げる」という選択肢は最初から捨てるべきでしょう。

給料差し押さえで生じるペナルティは4つ

給料差し押さえを内容とする裁判所からの予告通知書を無視したままでは、かならず給与が差し押さえられることになります。

給料差し押さえによって生じるペナルティは次の4つです。

  • 給料の1/4が差し押さえられて生活費が足りなくなる
  • 預貯金や財産まで差し押さえられる可能性が生じる
  • 税金を滞納するといつ差し押さえが実行されるか分からない
  • 会社や家族に借金をしていたことがバレて信用を失う

このように、生活費などへの影響という現実的な問題だけではなく、人間関係などにも悪影響が生じかねない点が、「給料差し押さえが深刻だ」と言われる理由です。

それでは、給料差し押さえで生じる4つのペナルティについて、それぞれ具体的に見ていきましょう。

給料の1/4が差し押さえられて生活費が足りなくなる

給料の差し押さえが実行されると、次の金額が会社から債権者に直接支払われます(供託の可能性もあり)。ボーナス・賞与も差し押さえの対象になる点に注意が必要です。

  • 給与手取り額44万円以下:給与額の1/4が差し押さえ(3/4は差し押さえ禁止)
  • 給与手取り額44万円以上:【給与額 – 33万円】が全額差し押さえ(33万円は差し押さえ禁止)

たとえば、給与手取り額28万円の債務者の場合、1/4相当の7万円は強制的に債権者に振り込まれるため、手元に受け取ることができるのは3/4の21万円だけです。また、給与手取り額48万円の債務者の場合、33万円以上の15万円が差し押さえ対象になるので、債務者自身が会社から受け取ることができるのは33万円と計算されます。

「手取り額の3/4は受け取ることができるなら問題はなさそう」というのは勘違いです。

まず、給料差し押さえが実行される段階に至ったということは、「収入の範囲内で生活費を工面する」という基本的なことが出来ていなかったことを意味します。つまり、元々厳しい家計収支バランスだったものが、さらに1/4をカットされることによって、今までよりも厳しい家計状況に追い込まれるということです。

また、所得税・住民税・社会保険料などの算定根拠となる収入は、給料差し押さえが実行される前の額面を基準に算定されています。つまり、給料差し押さえによって手取り額からさらに天引きされるということは、実質的に高負担の課税を強いられているということを意味します。

このように、給料の差し押さえは、債務者の生活費を窮地に追い込む厳しい措置です。強制執行が実行される前に債務整理等の手続きに着手すれば差し押さえを回避できるので、すみやかに弁護士・司法書士まで相談しましょう。

給料だけではなく退職金が差し押さえられるリスクもある

毎月の給料の差し押さえとの関係で押さえておくべきポイントは、「退職金も差し押さえの対象になり得る」という点。

原則として、退職金が支払われる前の段階でも各従業員は「退職金を受け取る権利」を有すると考えられるので、差し押さえ時における退職金支給額のうち手取り額1/4は強制執行の対象になる可能性があります(民事執行法第152条2項)。なお、例外的に、養育費・婚姻費用等の請求に基づく差し押さえの場合には、退職金の1/2が差し押さえられる点にご注意ください(民事執行法第152条3項)。

(差押禁止債権)
第152条2項 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。

引用元:(差押禁止債権の範囲の変更)民事執行法第153条

なお、すでに退職金が支払われた場合には、退職金は債務者と手持ち現金・預貯金等に混入すると考えられるため(お金に”色”はついていないからです)、現金66万円以上の金額・預貯金口座の残高はすべて差し押さえられるリスクが発生します(民事執行法第131条3号)。

退職金はリタイア後・転職が決まるまでのつなぎ資金などの拠り所となるものです。差し押さえ対象になると人生設計自体が大幅な変更を強いられるため、早期に強制執行回避に向けて動き出さなければいけません。

なお、中小企業退職金共済法に基づく退職金・確定給付企業年金・確定拠出年金・社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づく退職金など、一定の退職金については差し押さえ自体が法律で禁止されている場合があります。このケースでは退職金が差し押さえられることはないのでご安心ください。

給与差し押さえ後の生活が苦しい場合には「差押禁止債権の範囲の変更」の申し立てが可能

給料の差し押さえによって手取り額の1/4が差し押さえられると、その分だけ家計が圧迫されます。

強制執行が実行される前の段階でも収入の範囲内で生活をするのが困難だった債務者にとって、給与額の1/4の差し押さえはかなり厳しい処分でしょう。場合によっては、従来の生活レベルが維持できないだけではなく、最低限の生活さえも立ち行かなくなるリスクさえ生じかねません。

この場合の対処法として、「差押禁止債権の範囲の変更」を申し立てるという手段が用意されています(民事執行法第153条)。

(差押禁止債権の範囲の変更)
第153条1項 執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。

引用元:(差押禁止債権の範囲の変更)民事執行法第153条

給料の差し押さえ範囲が変更になるか否かは、「強制執行による収入減少によって債務者の生活実態がどれだけ圧迫されているのか」について裁判所が具体的事情を斟酌して決定されます。

「差押禁止債権の範囲の変更」を申し立てる際には、債務者側の主張を裏付ける証拠・疎明資料等を提出する必要があるので、家計簿や預貯金通帳など、毎月の支出・生活実態が証明できる書類を用意しましょう。

給料差し押さえで生活が困窮した場合には公的支援制度の活用も検討する

給料差し押さえによって生活維持が困難になり、また、裁判所に「差押禁止債権の範囲の変更」が認められなかった場合には、公的支援制度等を活用して生活を維持する方法が考えられます。

たとえば、次の公的支援制度等が利用できる場合があるので、要件・手続きについてお住まいの自治体の窓口までご相談ください。

  • 生活保護制度:最低限の生活維持のために各種扶助を受けられる。
  • 緊急小口資金制度:生活福祉資金の特例貸付として、20万円までを上限に無利子・無担保で融資。
  • 母子父子寡婦福祉資金貸付金制度:ひとり親世帯の生計維持・必要支出のために低金利で貸付。

預貯金や財産まで差し押さえられる可能性が生じる

消費者金融カードローンなどの債権者の多くは、毎月確実に発生する給料を差し押さえることによって滞納額の回収を図るケースがほとんどです。

もっとも、給与の差し押さえだけでは満額回収までに相当の月日がかかる場合・債務者が退職するなどの事情で給料の差し押さえが実を結ばない場合などには、給料以外の財産などに対して強制執行が実行される可能性もあります。

給料以外に差し押さえられる可能性があるのは、次のモノです。

  • 預貯金口座
  • 債務者名義の財産

たとえば、債務者名義の預貯金口座が差し押さえられてお金が口座振替されると、預金残高不足が原因で家賃・公共料金・携帯電話使用料などの支払いができない可能性が生じます。

また、口座を開設している金融機関との間でローン契約等を締結している場合には、第三者からの差し押さえが「ローン契約の期限の利益喪失条項」に抵触することになるため、ローン残債の一括返済を求められることに。預金残高で返済できない場合には口座凍結のリスクを避けられません。

さらに、債務者名義の財産が差し押さえられると、一定の「差し押さえ禁止財産」に該当するもの以外はすべて処分対象になります。たとえば、マイホームが処分されると引越しを余儀なくされるでしょうし、転居先次第では子どもの転校まで強いられるでしょう。

このように、強制執行は「ただモノが奪われるだけ」ではなく、債務者の生活基盤・債務者の家族にまで影響が及ぶものです。債権者・裁判所からの通知を無視するのではなく、かならず強制執行が実行される前の段階で債務整理などの現実的な対処法に踏み出してください。

なお、差し押さえ禁止財産は次の通りです。以下のものだけは確実に手元に残すことができる、裏を返せば、「以下のもの以外は何が差し押さえられてもおかしくない」という危機的な状況であることを胸に刻みましょう。

  • 生活に欠くことができない衣服・寝具・家具・台所用具・畳・建具
  • 1ヶ月の生活に必要な食料・燃料
  • 標準的な世帯の二月間の必要生計費(現金66万円)
  • 農業従事者にとっての農機具・農作物、漁業従事者にとっての捕獲機・養殖器具など
  • 実印など、職業上・生活上欠かせない物品
  • 仏像・位牌など礼拝・祭祀に必要な物
  • 債務者に必要な系譜・日記・商業帳簿などの書類
  • 債務者・その親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
  • 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
  • 義手・義足その他の身体の補足に供する物
  • 国民年金・厚生年金などの受給権
  • 生活保護受給権
  • 児童手当受給権

税金を滞納するといつ差し押さえが実行されるか分からない

給料の差し押さえが「税金や国民年金保険料などの滞納」が原因で実行される場合には注意が必要です。

なぜなら、消費者金融カードローンなどへの返済が滞った場合とは異なり、次の点において未納者がより窮地に追い込まれる可能性が高いからです。

  • 「滞納処分による差し押さえ」は裁判所の手続きなしで実行可能
  • 督促状送付から起算して10日以内に税金等が完納されないと滞納処分が実行される
  • 「差し押さえ禁止」の範囲・計算方法が異なるので、給料差し押さえの範囲が広くなるリスクがある

一般私人間のお金の貸し借りとは異なり、税金・国民年金保険料(保険税)は原則としてすべての国民に支払い義務が課されているものです。つまり、わざわざ裁判所で「権利があること」「義務があること」を確定する手続きが必要ないので、「滞納→督促→滞納処分による差し押さえ」の流れが短期間で進められる可能性が高いです。

また、一般私人間のお金の貸し借りのケースでは「給料手取り額の3/4が差し押さえ禁止債権」というルールで運用されますが、税金・国民年金保険料(保険税)を滞納した場合の差し押さえ禁止債権の範囲は次の金額を合算したものとされています。

  • ①所得税・住民税・社会保険料
  • ②給与から①を差し引いた金額の20%
  • ③月当たり10万円
  • ④配偶者・子ども・両親等の同一生計の親族ひとりにつき45,000円

参照:(給与の差押禁止)国税徴収法第76条1項

つまり、①~④の合計額が給与手取り額の3/4を超えない場合には、借金を滞納したケースよりも高額の給料が差し押さえられるという計算です。

すべての国民に納付義務が課されている税金・国民年金保険料(保険税)の徴収は厳粛に進められるので、消滅時効などを期待するのは不可能に近いでしょう。

なお、税金・国民年金保険料などの滞納問題は債務整理で解決することができません。したがって、滞納処分による給料差し押さえを回避するために、自治体の窓口・税務署に足を運んで、分割払い・支払い期限の猶予・延滞金の免除などを直接交渉することをおすすめします。

会社や家族に借金をしていたことがバレて信用を失う

給料が差し押さえられると、会社・家族に借金のことがバレます

まず、会社は直接強制執行手続きに巻き込まれるので、会社に隠し通すのは不可能です。

もちろん、社員の給与等に関する情報には守秘義務が課されているため、たとえば大企業なら総務・人事・経理などの担当部署のみでの共有事項で止められるかもしれません。その一方で、中小零細企業などの場合、社員の個人情報が知らない間に噂として流れることもあるでしょう。結果として会社に居辛くなり、仕事に支障が出ないとも限りません。

また、給料の差し押さえは滞納額満額が回収されるまでつづくことが多いので、その間は世帯の収入が常に1/4カットされた状態になるということ。明らかに生活水準が低下するため、生活の維持が困難になり、家族に借金のことが知られるでしょう。パートナーに給与明細を見られたときに「その他控除」「差押控除」などと記載されていれば誤魔化すことはできません

「お金の管理ができない人」という認識が共有されると、社会的な信用を失うことになります。失墜した信用を回復するのは簡単ではないため、強制執行が実行される前に借金問題解決に向けて動き出すべきでしょう。

給料差し押さえを回避する3つの方法

給料が差し押さえられると過大なペナルティが発生するため、すみやかに「強制執行回避」に役立つ対処法に踏み出す必要があります。

そして、給料の差し押さえが迫った債務者に与えられた選択肢は次の3つです。

  • ①自力で返済資金を用意する
  • ②強制執行手続きに対して異議申し立てをする
  • ③弁護士・司法書士に債務整理を依頼する

それでは、給料差し押さえを回避する3つの方法について、それぞれ具体的に見ていきましょう。

①自力で返済資金を用意する

給料の差し押さえが実行されるのは、債務者が契約通りに返済をせず、残債の一括請求にも応じないからです。

つまり、債権者から借り入れた借金総額全額を自力で完済すれば、強制執行の根拠となる滞納の事実が解消されるため、強制執行を回避することができます。

自力完済のために返済資金を工面する際には、次の方法をご検討ください。

  • 自宅にあるブランド品・高価ゲーム機器・不用品などを売却する
  • 親族・友人に融資をしてもらう

自宅の不用品売却等によって返済資金を調達できるのなら躊躇なく完済を目指すべきです。その時点で強制執行は回避できますし、借金生活も終了します。

その一方で、給料の差し押さえ間近ということは、借金残債がかなり高額になっているケースも少なくないでしょう。家財道具等の処分だけでは賄いきれない可能性が高いので、親族・友人などに個人的にサポートしてもらうのも選択肢のひとつです。

たとえば、親族に立て替えてもらえば、その後、利息条件・返済期間・返済方法について融通をきかせてもらいやすいはず。消費者金融カードローンなどへの返済よりも楽な環境で完済を目指せるでしょう。ただし、トラブル防止のために、かならず借用書を用意して、約束通りに返済をしてください。

なお、「給料の差し押さえを回避するため」という目的であったとしても、他社からの借り入れに頼るのは厳禁です。そもそも、給料の差し押さえ間近の債務者はブラックリストに登録されているので合法的に貸金業を営んでいる金融機関からは融資を受けることができませんし、仮に「ブラックリストでも融資可能」という業者がいるとすれば、違法な利息条件などを強いる闇金の可能性が高いです。

闇金被害に巻き込まれると、借金返済状況は今よりも深刻な状況になるだけです。「自分の収入・交友関係の範囲内から自力完済を目指す」というスタンスを維持しましょう。そして、どうしても返済資金を用意できない場合には、すみやかに債務整理に着手するべきです。

給与差し押さえ後でも全額弁済すれば解除できる

実際に給与が差し押さえられた後でも、借金残債を一括で返済すれば差し押さえを解除することは可能です。

これによって、毎月の給与を手取り額満額受け取ることができるようになるので、家計収支バランスの回復を目指せるでしょう。

ただし、給与差し押さえ後に会社から債権者に支払われた金額分は、給与差し押さえが解除された後も債権者の手元から戻ってくることはありません。なぜなら、借金の残債に充当されてしまったからです。

つまり、親族・知人の融資などを頼って給与差し押さえ後に残債全額を弁済するタイミングが遅くなるほど給与差し押さえの影響は過大になるということ。給与差し押さえを解除する目途を立てられるなら、できるだけ早いタイミングでお金の工面のために動き出すべきでしょう。

②強制執行手続きに対して異議申し立てをする

給料差し押さえに至るまでには、いくつかの法的ステップを順番に進んでいくことになります。

そこで、債務者側としては、各段階に用意されている異議申し立ての機会を利用して、給与差し押さえの実行を防ぐことが可能です。

  • 債権者から「差し押さえ予告通知書」が郵送される
  • 裁判所から「支払督促申立書」が郵送される
  • 裁判所から「仮執行宣言付支払督促」が郵送される
  • 強制執行が実行される

ただし、異議申し立ての機会が保障されているとはいっても、債務者側の主張に法的根拠がなければ意味がありません

たとえば、「金銭消費貸借契約書が偽造された」「消滅時効を援用する」「請求の根拠となっている事実自体に誤りがある」「既に返済をした」など、客観的な証拠を添えて債権者側の主張を覆せるような場面に限られます。

むしろ、「契約したことは事実・借りたことも事実・返済していないことも事実」というように、債権者の主張が全面的に正しい状況なら、異議申し立てに時間を割くのではなく、債務整理などの準備に注力するべきだと考えられます。

③弁護士・司法書士に債務整理を依頼する

自力で残債の一括請求に応じることができない場合、異議申し立てに法的な根拠が存在しない場合には、すみやかに債務整理に着手することをおすすめします。

債務整理とは、国が認めた合法の借金減免制度のこと。原則として契約通りに返済をしなければいけない借金ですが、「債務整理を利用すれば合法的に返済義務の軽減・免責を狙うことができる」という例外ルールが定められています。

そして、債務整理を利用する際には、弁護士・司法書士に依頼をするのが適切です。なぜなら、法律の専門家への依頼によって次のメリットが得られるからです。

  • 専門家に債務整理を依頼すれば自分に適切な方法で借金問題解決を目指せる
  • 専門家に債務整理を依頼すれば債権者からの取り立てが停止する
  • 相談料無料で専門家のアドバイスを受けられる

それでは、給料の差し押さえが迫った状況で債務整理を利用するメリットについて、それぞれ具体的に見ていきましょう。

専門家に債務整理を依頼すれば自分に適切な方法で借金問題解決を目指せる

債務整理には、自己破産・個人再生・任意整理の3種類の手続きが用意されています。

債務整理を利用する債務者側で希望する手続きを選択できるのですが、法律の素人である債務者自身では自分に適した手続きを選択するのは簡単ではないでしょう。

そこで、弁護士・司法書士に債務者の置かれた状況を踏まえて適切な債務整理手続きを選択してもらうのが有効だと考えられます。特に、給与の強制執行が差し迫った状況では、慎重かつ迅速に手続きを選択しなければいけません。専門家のアドバイスを参考に、進むべき方向性を決定してもらいましょう。

ここからは、各債務整理手続きの特徴を紹介するとともに、各債務整理手続きと給与差し押さえとの関係を解説します。特に、すでに給与差し押さえが実行されてしまった場合の対処法としても役立つためご参照ください。

自己破産は借金返済義務を免責して給料差し押さえを回避できる

自己破産とは、裁判所に借金返済義務を免責(=帳消し)にしてもらう債務整理手続きのこと。債務者に大きなメリットをもたらすと同時に、相応のデメリットも覚悟しなければいけません。

自己破産の特徴は次の通りです。

  • 無職・フリーター問わず誰でも借金返済義務の免責を狙える
  • 債務者名義の財産が処分される(”自由財産”は手元に残せる)
  • 税金・養育費などの”非免責債権”だけは例外的に免責されない
  • ギャンブルが原因の借金など、”免責不許可事由”があると手続きのハードルが高い(”裁量免責”による免責)
  • 職業制限・移動制限・郵便物の管理制限など、手続き中の制限事項が多い

そして、給料の差し押さえとの関係で注意すべきポイントは、管財事件・同時廃止事件のどちらの手続きで免責に向かうかによって扱いが異なるという点。

管財事件とは、免責不許可事由が存在する・借金総額が多い・財産処分を要するなど、慎重に破産手続きを進める必要があると判断された結果、「破産管財人」が選任されて手続きに時間を要する事件類型のことです。

管財事件に分類される場合には、破産手続き開始決定が下された時点で給与差し押さえが「失効」するので、債務者は破産手続きがスタートした段階から給与を満額受け取ることができます(破産法第42条2項)。

これに対して、同時廃止事件とは、免責不許可事由が存在しない・借金関係がシンプル・財産処分に時間がかからないなど、コンパクトに破産手続きを進めても差し支えないケースで選択される事件類型のことです。

同時廃止事件に分類される場合には、破産手続き開始決定(及び廃止決定)の段階では給与の強制執行が「中止」されるだけなので、手取り額の1/4が差し引かれた状態でしか給与を受け取ることができません(破産法第249条1項)。ただし、同時廃止事件の場合でも、免責許可決定が確定した段階で給与の差し押さえが「失効」するので、それ以降は給与を満額受け取ることが可能です(破産法第249条2項)。なお、同時廃止事件手続き中に天引きされていた給与は供託金としてプールされた状態なので、免責許可決定が確定した時点で全額債務者の元に戻ってきます

個人再生は借金元本を減額して給料差し押さえを回避できる

個人再生とは、裁判所を利用して借金元本自体を減額し、ふたたび3年の分割払い計画を作り直す債務整理手続きのことです。自己破産のように全額免責というわけにはいきませんが、借金総額自体が大幅に減額されるので(最大1/10まで圧縮)、完済を目指しながら生活再建を図ることができます。

個人再生の特徴は次の通りです。

  • 借金総額を減額後、原則3年の分割払い計画を作成できる(例外的に5年まで延長可能)
  • 借金総額が100万円以下・所有財産が多い場合には減額効果を期待できない
  • 住宅ローン返済中のマイホームの担保権実行を回避できる
  • 給与所得者など、安定的・継続的な収入があることが大前提(無職は不認可)
  • 裁判所における手続きが複雑で債務者だけでは手続きを進めにくい

個人再生を利用した場合にも給料の差し押さえを回避することは可能ですが、自己破産の同時廃止事件と同じように、給料額を満額受け取ることができるまでには時間を要します

具体的には、個人再生手続きの開始決定が出た段階では給料の差し押さえが「中止」になるだけ(民事再生法第39条1項)。個人再生計画認可決定が確定した段階で給料の差し押さえが「失効」し、その後は給与額を満額受け取ることができます(民事再生法第184条)。つまり、原則として個人再生手続きに要する3ヶ月~半年程度の期間は給与を満額受け取るのは難しいということです。

なお、個人再生では、強制執行の取り消し命令の申し立て(民事再生法第39条2項)によって、個人再生計画認可決定を待たずに給与を満額受け取る道が用意されています。要件充足が厳しく、また、数ヶ月待てば満額が手元に戻ってくることを考慮すると、強制執行の取り消し命令を求める実益は高くないと考えられます。

任意整理は将来利息を免除・給料差し押さえ回避を交渉できる

任意整理とは、裁判所を利用せずに、債権者と直接交渉をすることによって、将来利息のカット・元本のみの返済計画をリスケジュールする債務整理手続きのことです。

自己破産・個人再生と比べると減額効果は弱いですが、債務者を苦しめる根本原因である「利息負担」から完全に解放されるので、最終的な返済負担総額を大幅に減額できるというメリットが得られます。

任意整理の特徴は次の通りです。

  • 裁判所を利用しないので手続きを柔軟に進められる
  • 将来利息をカットできるだけでも充分な減額効果を期待できる
  • 3年~5年の返済計画を作り直すので、場合によっては返済額が増額するリスクがある
  • 整理対象を自分で選択できるので連帯保証人への迷惑を回避できる

ただし、任意整理は裁判所とは無関係に行われる債務整理手続きなので、給料の差し押さえへの対抗措置としては不十分です。特に、すでに差し押さえが実行されている場合、債権者側が差し押さえの解除に応じてくれる可能性は低いでしょう(なぜなら、差し押さえによって一定額の「返済」を確実に受けることができるからです)。

したがって、給与の差し押さえを回避したい・給与の差し押さえを解除したいと希望する債務者は、任意整理交渉のなかで、今後の返済プランについての具体的根拠を示しつつ、強制執行の取り下げを依頼する必要があります

消費者金融カードローンなどのプロの貸金業者が提供しているカードローンと厳しい交渉を進めなければいけない場面なので、かならず任意整理交渉の実績豊富な弁護士・司法書士に依頼をしてください。

専門家に債務整理を依頼すれば債権者からの取り立てが停止する

弁護士・司法書士に債務整理を依頼すれば、債権者からの取り立て行為を停止することができます。

これは、依頼を受けた専門家が債権者に送付する「受任通知(介入通知・債務整理開始通知)」の効力によるもの。受任通知には債権者の取り立てを禁止する力があるため、「債務整理の依頼時」から取り立てストレスのない環境を作り出せます。

たとえば、給料の差し押さえが直前に迫った債務者のなかには、複数社からの督促を受けているということも少なくはないはず。ただ、受任通知の送付によって携帯電話への問い合わせ・自宅や職場への電話連絡・自宅訪問・郵便物の送付などの一切の取り立て行為が停止するため、平穏な状況で債務整理の準備を進められるでしょう。

相談料無料で専門家のアドバイスを受けられる

給料の差し押さえがひっ迫した債務者のなかには、専門家に相談したくでも相談料が用意できずに困っているという人も少なくないでしょう。

債務整理の実績豊富な弁護士・司法書士は、次のようなサポート体制を整えています。これによって、今すぐにお金を用意できない債務者でも、専門家からのアドバイスを受けることが可能になるはずです。

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給料の差し押さえ予告通知書が届いた債務者・給料の差し押さえが実行された債務者には悠長にしている時間がありません。これ以上ペナルティを拡大させないためにも、すみやかに弁護士・司法書士まで選択すべき債務整理手続きについてご相談ください。

給料差し押さえを理由に会社をクビになることはない

給料の差し押さえが実行されたとしても、会社をクビになることはありません。なぜなら、借金問題は従業員の個人的な問題に過ぎず、業務上の能力・資質とは一切関係がないからです。

もし、会社側が「給料が差し押さえられたこと」を理由として解雇などの懲戒処分を下したとしても、「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合」として、懲戒権の濫用・懲戒処分の無効という取扱いとなります(労働契約法第15条・16条)。

また、「自己破産を理由とする解雇」「債権者が会社に取り立てに来たことを理由とする解雇」などについても同様に違法・無効な処分だと判断されるのが一般的です。

ただし、雇用者側が労働契約法を熟知せずに不当解雇処分を下す可能性もありますし、その場合には労働紛争によって処分の有効性を争わなければいけません。借金問題が原因で紛争に発展するリスクがないとはいえないので、職務への影響・不安についても専門家に相談することをおすすめします。

なお、従業員間でのお金の貸し借りが原因で深刻なトラブルに発展したケースは注意しなければいけません。なぜなら、会社によっては従業員間の金銭消費貸借契約を禁止する就業規則等を定めている場合があるので、「就業規則違反」として懲戒処分等が下される可能性があるからです。この場合の処分は有効だと考えられます。

まとめ

給与の差し押さえは無視することができません。差し押さえ予告通知書などが送付されると、今後間違いなく強制執行は実行され、会社を巻き込んだ流れで給与の差し押さえが実行されるでしょう。

給与の差し押さえが実行されると、満額を完済するまでは手取り給与額から1/4が天引きされた状態がつづきます。家計は疲弊し、借金を返済している途中よりも厳しい家計状況に追い込まれかねません。

したがって、自力完済が可能なら資金を調達する、どうしてもお金を用意できないならすみやかに弁護士・司法書士に債務整理をご相談ください。給与差し押さえを回避するだけではなく、借金問題を根本から見直すことができるでしょう。

よくある質問

Q. 差し押さえは、給与にも影響するのですか?
A.

差し押さえは、給与にも影響します。差し押さえというと、自宅にあるものを没収されるイメージがありますが、当然ですが金融資産も没収されます。給与も当然没収対象です。ただし、すべて取られるわけではありません。給与が44万円以下の場合は4分の1が差し押さえ、給与が44万円を超える場合は33万円以上が全て差し押さえになります。

Q. 給与が差し押さえにあうと会社をクビになりますか?
A.

給与が差し押さえにあってもクビにはなりません。差し押さえはあくまでも個人の問題であり会社とは関係ないからです。もし解雇された場合は、弁護士に相談の上、訴えた方がいいでしょう。ただし、財務に係る部署にいる場合は、他の部署に異動になることがあるかもしれません。

Q. 給与が差し押さえにあうと、会社にバレますか?
A.

給与が差し押さえにあうと、ほぼ100%会社にバレます。間違いなく経理には完全にバレます。そこから人事や法務に話がいくことも想定されます。また、直属の上司に話がいくことも覚悟しなければなりません。差し押さえにあってもクビにはなりませんが、社会的信用は失うことになるでしょう。